アムステルダムを歩いていて街にとけ込んでいるな,と思えるものに「トラム(路面電車)」がある.近年は,都市部における路面電車が環境に優しいユニバーサルデザインとして注目されるようになっており,ここアムステルダムのトラムも,さまざまな施策を取り入れて,路面電車の維持に力を注いでいる.
アムステルダムの概要 | ||
人口 | 724,000人 | |
都市圏人口 | 約110万人 | |
市域面積 | 806km2 | |
人口密度 | 1,370人/km2 |
(出典:西村幸格・服部重敬著,「都市と路面公共交通」,学芸出版社,2000)
アムステルダムのトラムや地下鉄・バスは,GVB(Gemeentevervoerbedrijf Amsterdam)と呼ばれる市営交通によって運営されている.
アムステルダムは,積極的に路面電車の近代化を進めた都市のひとつで,1950年代より輸送力が大きくてきついカーブでも曲がれる連接車(車両と車両との間に車輪の台車をもってくる電車)を導入したり,信用による運賃収受方式を取り入れたりしていった.トラムの全車両には,車両の位置が検知できる装置が設置されており,運転手への運行時間の指示と主要停留所での発車時刻の案内が行われている.(参考文献:西村幸格・服部重敬著,「都市と路面公共交通」,学芸出版社,2000)
トラム(路面電車)の概要 | |||
路線延長 | 系統数 | 運行間隔 | 旅客数(1997年) |
138km | 17 | 5-9分 | 128.7百万人 |
(出典:西村幸格・服部重敬著,「都市と路面公共交通」,学芸出版社,2000)
アムステルダム中央駅前のトラム
軌道と歩道は柵などで区切られておらず,触ろうと思えば車体に触ることができる.写真は,信号待ちで停止していたトラムから運転手が降りてきて,故障した(?)ポイントを左手に持っている棒みたいなもので手動で動かして運転席に戻っているところ.
中央駅前のトラム光景
中央駅の乗り場は,駅の出口を出たすぐのところにあって,歩道橋などでホームを移動するのではなく,ひょこっと線路をまたいで隣のホームに行くことができる.トラムの車両も低床式のものが導入されているので,苦労することなく楽に乗降することが可能なユニバーサルデザインの思想となっている.なお,右下の写真はトラムではなくてバスであるが,連接式の車体の長いバスとなっていて珍しかったので撮ってみた.
国立ゴッホ美術館付近(Van Baerlestraat)
車道中央にある専用軌道の上を走っていく区間.電車にしては加速減速の能力が高くて,結構運転が荒く感じるが,これくらいの加速性能がないとトロトロしていて,路面電車としての機敏性が発揮されないかも知れない.
トラムの車内と1日乗車券
最新の車両(5両編成)の場合は,電光掲示板の停留所案内なども付けられていて,すっきりとしたデザインとなっている.車両のタイプによって乗り降りの仕方が違っていて,最新式の車両の場合は後ろから2両目に車掌さんが乗っているので,そこからしか乗車することができず,そこで運賃を払ったり回数券に刻印を打ってもらったりする.
旧式の場合(3両編成)は,どこからでも乗り降り自由で,車内にある黄色い刻印機に切符や回数券を通して,日付と時間を刻印して乗車することになる(つまり,これが信用乗車というやつ).ただし,車内検札がたまにあって,このときに無賃乗車をしていると容赦なく罰則金(約40ユーロ)がとられるとのこと.無賃乗車などが多いので,1994年より順次車掌を乗務させるようになってきたとのこと.
チケットは1ゾーンで1.6ユーロ(旧市街地のセントラル地区はほとんどこれでOK)で,1時間以内であれば何度でも乗り降り自由となっている.1日乗車券は6.3ユーロでトラム・地下鉄・バスに乗り降り自由.最初の乗車時に刻印が必要で,刻印時から24時間有効となるので,正確には24時間有効乗車券といったところだろうか.
旧市街地の密集地でもスイスイ走るトラム(Leidse straat)
建物が密集している旧市街地でもトラムはスイスイ走っている.ここはライツェ通り.両側には商店街が建ち並び,人々で賑わっている地区である.
商業空間に溶け込んでいるトラム(Leidse straat)【トランジットモール】
ライツェ(Leidse)通りでは,トラムが走っていないと左の写真のように人や自転車が普通に歩くことの出来る道路となっているが,トラムが鐘を鳴らしながらやってくると,スーッと人々は避けてトラムが走り去ってゆく.本数は結構多くて2~3分間隔でやってくるが,柵などの区分けもなくアムステルダムの人々が,さも当たり前のような顔をしてよけるので,人々と商業空間とトラムとが暗黙のルールの中で共存できているのだなと感じた.
この区間では,建物が迫っているので単線区間となっており,運河の上にかけられた橋の上の停留所だとすれ違うための空間が確保できるからなのか,そこで上下線のすれ違いを行うようになっていた(下図).
どうやって次から次へとやってくるトラムのポイント切り替えや操作を行っているのか疑問になって,よーく線路を観察してみた.その答えが下の写真である.
つまり,ポイントがないのである.単線区間ではレールが4本(通常は2本)敷いてあり,同じ区間なのであるが上りと下りのトラムは平行に敷かれた違うレールの上を走っているのである(ガントレット構造).さすがヨーロッパ!と感動してしまった.ちなみに,ライツェ通りを走るトラムの系統番号は「1」・「2」・「5」番である.
鐘を鳴らしながら走るトラム
アムステルダムのトラムは,発車するときや信号が青になって動き出すときには,たいてい警笛を鳴らしている.この警笛の音色が「鐘」の音なのである.いたるところのトラムから鐘の音が聞こえてくるのである.あじけない無機質な,いかにも「危ない!どけ!」と叫んでいるかのような暴力的な警笛ではなく,教会から聞こえてくる鐘と同じ音色をトラムに付けることによって,歴史との連続性を持たせ,「トラムが通ります!ちょっとだけどいてくださいね」と優しく促しているように感じる.アムステルダムでは音もサスティナブルなのである.
街中あちこちから鐘が鳴り響く街の風景は,空間すべてに配慮しているアムステルダムに,より一層の感動を覚えさせられるものであった.
最初に写っているトラムは,すれ違いの為に停留所で停車している.
反対側から鐘を鳴らしてやってきたトラムが停留所に入ると,
線路があいたので,出発して単線区間を鐘を鳴らしながら走り去っていく.
発車時刻を表示する案内板
トラムの全車両には車両の位置が検知できる装置が設置されており,主要な停留所では写真のような系統番号と発車時刻を知らせる案内板がついている.
ダム広場を走るトラム
新しいタイプのトラムは5両編成となっている.写真ではわからないのだが,よく見ていると全部の車両に車輪がついているわけではない.車両の長さを短くして車輪の数を少なくすることによって,狭いカーブのきつい区間でもスイスイ走ることができるようになっており,旧市街地の狭い地域を大量に輸送したい場合の知恵である.
旧タイプのトラム
昔は黄色や赤や広告などに塗られていて,
カラフルな時代もあった .