多摩ニュータウン(その1)【東京考察#37】

Tama housing new town (Vol.1)


(出典:「多摩ニュータウン」パンフレット)


 多摩ニュータウン(以下多摩NT)は東京都南部の多摩丘陵に位置し、標高150m前後、多摩市を中心に稲城市、八王子市、町田市に及ぶ東西14km、南北2~4kmの大規模な住宅開発地域である。京王相模原線を利用することにより、新宿から約35分で結ばれており、大都市東京のニュータウンとして、大阪の千里ニュータウンとともに、大都市の住宅供給を行ってきた開発である。

1960年代、日本の高度経済成長によって東京圏は都市化が急速に広がっていき、大量の勤労者が流入していった。それに伴って、住宅宅地需要が増加していき、中心市街地の地価の高騰によって、郊外である多摩地域でも無秩序な開発(スプロール化)が進行していった。このことから、居住環境の良い宅地・住宅を大量に供給することを目的として、1965(昭和40)年、「新住宅市街地開発事業都市計画」が決定、計画人口約30万人、総面積約2980haの多摩NT開発が行われることになった。

 多摩NTの宅地開発は、施行者が土地を全面買収して宅地造成などを整備する事業(新住宅市街地開発事業という)と、所有されている土地を換地という手続きによって区画形質の変更を行って宅地としての利用を増進する事業(土地区画整理事業という)によって行われている(道路や下水道などの整備は関連公共施設整備事業によって行われている)が、多摩NTでは前者の土地を全面買収することをメインとして宅地造成をしており、歩車分離を徹底させた(ラドバーン方式)道路構成やバランスのとれた建物や公園の配置など、開発設計思想の反映された個性と魅力のある面的な住宅開発がされている。

新住宅市街地開発事業の施行者は、都市基盤整備公団(前住宅・都市整備公団)、東京都住宅供給公社、東京都によって行われている。

見学モデルルート


1970年代前半

多摩NTで最初に入居開始された地区が諏訪・永山地区であり、その翌年に入居開始されたのが和田・愛宕東寺地区である。「安く良質な住宅を、早く大量に供給する」という時代であり、箱形の中層住宅(5階建て)が平行に建設され、ポイントには高層住宅(14階建て)も建設された。

★諏訪・永山団地 1971(S46)年入居開始
3DKを中心都市、平均住戸専用面積は約50m2。直方体の箱形中層住宅と高層住宅が建設された。


初期に開発された貝取団地


豊ヶ丘・貝取近隣センター(構成図:戸店)


近隣センター構成図

 
大型スーパーなどの出店による小売店の衰退は
近隣センターでも起こっている。
中心市街地の衰退と同じことである


近隣センターにある医者村(構成図:病)

1970年代後半

★貝取・豊ヶ丘団地 1976(S51)年入居開始
基本的な外観、プランは諏訪・永山団地と同じである。分譲住宅については広いLDKを導入するなどして面積を大きくしたため、平均住戸専用面積は70m2を越えた。また、1971年の道路法改正によって、諏訪・永山地区ではできなかったペデストリアンデッキによる歩行者専用道路のネットワーク(歩車分離のラドバーン方式)が実現した。公園もただ真四角の広場をとるだけではなくて、池を配するなどの工夫が見られるようになった。


ペデストリアンデッキ(歩道橋)によって徹底的に
歩車分離が図られている


初期の箱形中層住宅(ようかん型とも言う)


ゴミ集積所


1階の掲示板

 公団住宅の入口は開放的で入りやすい。それは、居住者以外の人も入りやすいということであり、そういう構造上のこともあってか、公団の団地というのは、壁への落書きやエレベーターボタンのいたずら(ライターでプラスチックのボタンを溶かしてしまう)が多いように思う。


犯罪防止のため、午後11時から午前5時まで、
強制的に各階に停止するエレベーター
14階の住人にはたまらない(深夜は全てドアが開くのである)


新住宅市街地開発事業で整備された区域内では、中学校区を基本的な単位として、幹線道路を境界に「住区」と呼ばれるブロックに分けられている。
全住区数は21住区であり、1住区は面積約100ha、住宅3,000~5,000戸、人口12,000~20,000人が計画されている。
各住区には原則として中学校1校、小学校2校を設置し、スーパーや店舗、交番、郵便局、診療所などの住民サービス施設の集まる近隣センターが配置されている。
さらに、住区をいくつかあつめた「地区」が構成されており、地区の中心(鉄道駅となっている)には地区におけるサービスセンターである地区センターが配置されている。
このように、学校やスーパー、警察などといった公共機関も含めて一体的に開発できるところに、土地を全面的に買収して開発する新住宅市街地開発事業の魅力があり、多摩NTの魅力と特徴になっている。公団や都道府県などの役所による開発でなければ、このような開発は難しいであろう。

住区マップ1 住区マップ2

参考文献
・多摩ニュータウンパンフレット
・日経アーキテクチュア 93年3月号