FRANCE:PARIS (Metro)
パリはフランスの首都であり、芸術の都・フアッショナプルな都として、経済は低迷しているにもかかわらず、現在でも全世界から一目置かれている都市である。
パリ市だけの人口は200万人弱、面積は105km2である。世田谷区の約2倍、山手線の内側程の広さしかない。しかし、現在は郊外にまで都市化が広がっており、そのパリ大都市圏全体では、人口約800万人、面積1000km2となる。ここに住む人々が、いわゆる「パリジャン、パリジェンヌ」と呼ばれている人々である。
パリ市内は20区に分けられており、セーヌ川右岸の中心部を1区として右回りの渦巻き状に2・3・4区・・・・・・と付けられている。1860年の市街拡大(オスマンの大改造)時に、エスカルゴを参考にして付け直したと言われている。そんな小さいバリ市内を縦横無尽に走っているのが地下鉄「メトロ」である。
やはりパリでも、ホテルに戻るときに地下鉄を利用した。オペラ座から一本北の道路にあるショセ・ダンタン(Chaussee d’ Antin)駅から、ホテル近くのボルト・ド・モントルイユ(Porte de Montreuil)駅までの9号線である。
メトロの入口には大抵、黄色い大きな「M」の文字がポールで掲げられている。マクドナルドの「m」のような感じである。階段を降りると薄暗い地下鉄の雰囲気となった。何処からともなく路上生活者の匂いが漂ってくる。
もともと「メトロ」という言葉には「地下」という意味はなかった。首都という意味だけであった。ところが、ロンドンの地下鉄がメトロポリタン鉄道という名で地下鉄を開通させたため、他のヨーロッパ諸国も地下鉄開通時にはこれを真似て、略してメトロと名付けるようになった。これがそのまま「地下」として定着してしまったとのことである。
パリの地下鉄には自動券売機がないところが多く、切符はギ・ソシェ(Guichet)と呼ばれる窓口で買うようになる。パリ市内は均一料金で6フラン(FFr)であった。1FFr=\20なので日本円では120円ということになる。ちなみにフランスの補助貨幣はサンチーム(C)であり、1FFr=100Cである。
普通の切符の他にも力ルネ(Camet)と呼ばれる10枚綴りの回数券がある。値段が約半額になるので、何度もメトロに乗る場合はカルネの方が経済的である。
窓口の横には手書きと思われる料金表が、はがき程の大きさの紙に書かれて貼ってあり、一番上の6FFrと書いてあるところを指差して、「This one.This one.シルヴブレ! 」
と言って切符を買った。シルヴプレ(s’il vous plait)とは英語のプリース(please)と同じで、『お願いします、ください』という意味である。
窓口のおねえさんは愛想がなく、隣の従業員と喋りながらガムを噛みながらの対応である。声さえ出さない。フランスではどこの窓口でもこのような態度であった。日本の習慣に慣れていると、『なんという態度だ! サービスが悪い! 』ということになるのだが、フランスではこれが普通なのである。逆に、極端に気を使うことの方が珍しいのかも知れない。他人は他人、自分は自分という、徹底した個人主義のフランスをかいま見たような気がした。
自動改札を通り、階段をおりた。自動改札では駅員の目を盗み、切符も買わずに飛び越えていく若者がいた。
メトロでは各路線に名前が付いておらず、番号と色で路線が区別されている。そして、案内表示板にはその電車の終点駅名だけが表示されている。だから、号線名と終点駅名さえ覚えれば目的の地下鉄に容易に乗ることができる。
9号線、メリー・ド・モントルイユ(Mairie de Montreuil)行きの電車がやってきた。車体には黒のスプレーで落書きがしてある。乗客がかなり降りて車内はすいた。椅子は向かい合って座るクロスシートとなっており、出入り口の横には折りたたみ式の補肋椅子がついていた。
すし詰めのラッシュのある東京ではこのような座席の配置は考えられないように思う。ロンドンのチューブとは違い、天井は高かった。つい最近までメトロには、昔の名残で1等車・2等車が存在していたが、それぞれの車内設備は全く同じであった。現在は廃止され、等級は無くなっている。
ドアからトンネルの内部をのぞくと、ところどころ、トンネル壁面にまで落書きが書かれている。夜中に侵入して落書きをするのだろう。しかし、メトロでは電流の流れる架線が線路脇にあるので、感電したりしないのだろうかと思う。もっとも夜は流れていないのかもしれないが。また、どこから地下に侵入するのかも疑問である。落書きに関して(特に車両)、パリ市は莫大な費用をかけて追放運動をしている。
車内放送や駅案内放送などは一切ない。目的のポルト・ド・モントルイユ駅までは14駅あり、見過ごしていると乗り越してしまう。駅に着くたびに駅名を確認した。
経済の低迷や高い失業率が続く現在のフランス・バリのメトロは、ロンドンのチューブよりも治安は良くない。場所によってはすりやかっぱらいが多く、特に旅行者が狙われると聞く。それでも、昼間に乗るには安全だし、単独でなければまず身の危険を感じる犯罪には出くわさない。市交通局の方でも観光都市であることから、多数の係員を導入して警戒に当たり、長い通路の角には鏡を設置して待ち伏せを防止するなど、犯罪防止に力を入れている。その甲斐あって、年々犯罪件数-特にすりやかっぱらいは減ってきている。
メトロでは扉は自動では開かない。このような表現には語弊があるかも知れない。自動で開くのであるが、扉にホックが掛かっており、最初に降りる(乗る)人がそのホックのレバーを回すとドアが自動で開くしくみになっている。また、最近の電車ではボタン式のものもあり、その場合青いボタンを押せば開く。閉まるときは全自動で閉まる。
ポルト・ド・モントルイユ駅に着いた。ホームはアーチ型の断面であり、壁には所々欠け落ちている白いタイルが並んでいた。
出口は自動改札ではなく、回転式の鉄格子を通り抜けて外に出る。反対には回らないし、外から中には入れないようになっている。また、反対側からは開かないガラス扉になっている出口もある。切符は手元に残り、記念に持ち帰った。
パリの地下鉄も奇麗とは言い難いが、駅によっては改装工事がなされているという。パリジャンにとってメトロは、必要不可欠な乗り物である。